Vol.21: 利用料などの滞納や未払い問題への対処2 「督促のポイントと法的措置」
- 2022年5月 Legal Care News Vol.21 PDFで見る
前回に引き続き、介護事業所における利用料などの滞納や未払い問題への対処について解説をします。
一 督促のポイント
1 督促ルールの構築
滞納や未払いがあった場合、何よりも、早い段階で督促を行うことがポイントです。
督促の体制を構築することが重要です。
例として、下記のような督促ルール・マニュアルの整備が考えられます。
- 督促(電話、面談、訪問での話し合い)の実施基準と担当者の選定
- 督促の実施回数と未収金を放棄する基準作り
- 未収一覧表の作成と定期チェック
- 督促状のテンプレートの用意
2 督促時の注意
債権回収の基本は、粘り強い電話や面談による支払いの催促です。
話し合いの際は、相手の言い分の確認が重要となります。
払えるだけのお金がないのか、または、介護サービス内容に不満があって支払わないか、などで対処方針は異なります。
理由のあるクレームや不満については、相手の言い分を傾聴しつつも、未払いが許されないことを説得する必要もあります。相手の言い分に合わせて説得する必要があり、説得できる会話パターンや言い回しなどの用意もお勧めします。
3 督促状の送付
電話や面談での督促でも支払いに応じない場合、督促状の送付も実施します。
督促状のテンプレートとして、柔らかい文章、事務的な文章、法的な措置を示す強い文章など何パターンかのテンプレートを作成しておき、使い分けも重要となります。
また、弁護士に相談の上で文書を送る場合、「なお、この書面は弁護士に相談の上で作成しております。 当施設としては、未払金の滞納が継続する場合、訴訟等による法的措置も検討しております。ご留意の程、よろしくお願い申し上げます。」などの言葉を追加し、プレッシャーをかけることも考えられます。
4 内容証明郵便の送付
こちらの電話に出ない、相手がこちらの連絡を無視する、のらりくらりとした対応を繰り返す、といったときは内容証明郵便を送付することも有効です。
内容証明郵便は直ちに法的効果を生じさせるものではありませんが、内容証明郵便を送ると「本気で債権回収を進めようとしている」「裁判を起こされる可能性がある」と強いプレッシャーを与えることができます。弁護士名義での内容証明郵便も考えられます。
二 裁判所の法的手続き
悪質な未払いや未払い金額が数百万円になるような場合、裁判所の法的手続きが選択肢となります。
1 支払督促
支払督促は簡易裁判所に郵送で申立てを行うことができ、簡単・短期間に手続が完了します。少額の債権を大量に請求するときはメリットがあります。もっとも、支払督促は異議を出されると通常訴訟に移行し、手続きが複雑になります。
2 仮差押え
強制執行に備えて、相手が持っている不動産、預金、債権を仮に差し押さえて自由に処分できない状態にする方法です。仮差押えは訴訟よりも迅速に進めることができ、仮差押えで結果的に債権回収ができるメリットもあります。
3 訴訟
訴訟となると長引くイメージがありますが、相手が未払いを正当化できる材料がない場合、訴訟は比較的短期で決着して判決が出ます。
4 強制執行
勝訴判決を得れば強制執行によって相手の承諾がなくとも、債権回収をすることができます。強制執行の対象財産は、相手の預貯金、給与、不動産が代表的です。
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弁護士法人リーガルプラス代表弁護士 東京弁護士会所属
介護法務研究会(C-LA)代表
谷 靖介(たに やすゆき)
石川に生まれ、東京で幼少期を過ごす。1999年明治大学法学部卒業、2004年弁護士登録。日本弁護士連合会の公設事務所プロジェクトに参加し、2005年、実働弁護士ゼロ地域の茨城県鹿嶋市に赴任。翌年には年間500名以上の法律相談を担当し、弁護士不足地域での法務サービスに尽力する。弁護士法人リーガルプラスを設立し、複数の法律事務所を開設し、介護医療事業への法務支援に注力。経営者協会労務法制委員会講師を務めるなど、講演経験やメディア出演も多数。