介護ニュースレター

Vol.22: 利用者のコロナ感染と介護事業者の責任

2022年8月 Legal Care News Vol.22 PDFで見る

今回のニュースレターでは、利用者のコロナ感染と介護事業者の法的責任についてお伝えします。

損害賠償請求の訴訟事例

ニュース報道によれば、
①2020年、広島県在住の利用者が、新型コロナウイルス(以下、「コロナ」)に感染して死亡したことが、コロナ感染の兆候があったヘルパーの訪問によるものとし、利用者の遺族が訪問介護事業者の運営会社を損害賠償請求の提訴(和解成立して訴訟が取下げ)
②2022年4月、富山市の老人保健施設でコロナ感染による死亡をした利用者の遺族が、発熱者が出ていたのにコロナを疑わず、個室に隔離するなどの対応をしていなかった点や病院への搬送義務といった事業者の過失を主張し損害賠償請求の提訴(施設側は必要な予防策を講じており、コロナの疑いが生じていない段階で、早期に病院に運ぶ義務はなかったと全面的に争う姿勢)
といった訴訟が発生しています。

職員から利用者がコロナに感染して死亡してしまった場合、介護事業者は利用者や遺族に対し、損害賠償責任を必然的に負ってしまうのでしょうか。

職員から利用者へのコロナ感染による死亡や重度後遺障害といった事故が生じた場合、利用者・その相続人から介護事業者に対する損害賠償請求が法的に認められるためには、
介護事業者にコロナ安全配慮義務違反があること
安全配慮義務違反とコロナ感染との間に因果関係があること
が必要となります。この条件を満たさなければ、コロナによる死亡という結果が生じたとしても、介護事業者は責任を負いません。

介護利用契約に基づくコロナ感染防止の「安全配慮義務」とは

介護事業者は利用者に対して、介護サービスの利用上、利用者の生命、身体、健康を保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。そして、介護事業者は、当然に利用者との間でコロナ感染予防のための安全配慮義務を負っています。

ここで求められる安全配慮義務は、マスクの着用を基本とし手指の消毒や殺菌等により病原体(感染源)をなくすこと、発熱者や体調不良者の把握や管理、コロナ陽性者発覚時の速やかな出勤停止、手洗いや食品の衛生管理など周囲の環境を衛生的に保つとともに、外的環境からの病原体の侵入を防ぐことなどが基本とされます。

この安全配慮義務の内容としては、『介護現場における(施設系 通所系 訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第2版』(厚生労働省)など、厚労省の介護保険最新情報等の事務連絡や通知に定められた感染予防対策が基本となります。

このような対処を怠り、職員から利用者がコロナに感染してしまった場合、安全配慮義務違反があることになります。

安全配慮義務の内容は、個別的な感染状況により変わりますが、利用者の死亡という結果のみに着目し、安易に介護事業者の安全配慮義務違反を認めてしまうと介護現場が崩壊してしまいます。厚労省が公表している基本的な感染症対策を実施しておけば、安全配慮義務を尽くしていると考えてよいでしょう。

安全配慮義務違反と感染・結果との因果関係

オミクロン株以降、コロナの感染力は非常に強く、介護事業者としても感染防止対策を十分に実施していたとしても、完全に利用者へのコロナ感染を防止できないことがあります。

このような場合、法的には因果関係も問題となります。職員が利用者にコロナウイルスを感染させた、と果たして正確に認定できるのか、という問題です。

特に被害者に家族など複数の接触者がいるような場合、被害者側のコロナ感染の因果関係の立証は非常にハードルが高いといえます。遺族が「この事業者のこの職員から感染があった」との因果関係の立証が必要となります。

介護現場を守るため

介護事故訴訟では、事故が発生した後の事業者の利用者、家族への謝罪や説明の姿勢が欠如・不足を原因として、遺族や家族の怒りや悲しみの感情が高まり、訴訟に至ってしまいます。
事業者側の落ち度の有無はともかくとして、重大な事故や死亡結果が生じてしまった場合こそ、事業者として、誠意をもって利用者・ご家族に向き合うことが重要となります。

弁護士法人リーガルプラス代表弁護士 東京弁護士会所属
介護法務研究会(C-LA)代表
谷 靖介(たに やすゆき)
石川に生まれ、東京で幼少期を過ごす。1999年明治大学法学部卒業、2004年弁護士登録。日本弁護士連合会の公設事務所プロジェクトに参加し、2005年、実働弁護士ゼロ地域の茨城県鹿嶋市に赴任。翌年には年間500名以上の法律相談を担当し、弁護士不足地域での法務サービスに尽力する。弁護士法人リーガルプラスを設立し、複数の法律事務所を開設し、介護医療事業への法務支援に注力。経営者協会労務法制委員会講師を務めるなど、講演経験やメディア出演も多数。

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