介護ニュースレター

Vol.26: カスタマーハラスメントと介護事業所の安全管理

2023年8月 Legal Care News Vol.26 PDFで見る

今回のニュースレターでは、利用者や家族からのカスタマーハラスメントについて、労災認定基準の改正、介護事業所の安全管理について取り上げます。

1、介護現場でのカスタマーハラスメント(以下、「カスハラ」)の実態

介護現場では利用者やそのご家族からのカスハラが頻発しています。
例えば、以下のようなものは、介護現場でのカスハラに該当します。

  1. 介護職員に介護技術上のミスがないにも関わらず、利用者の身体に褥瘡が生じてしまい、利用者の家族から何週間にもわたって、連日何時間もクレームを受け続ける。
  2. 利用者の居室内から物が紛失し、担当していた職員のせいにされて、介護で居室に入るたびに「泥棒だ」「早く物を返せ」などと言われ続ける。
  3. 利用者の家族から職員の負荷が大きい特殊な対応を要請され、それを断ると連日にわたって長時間電話をされて職員が責められ、大量の不満の文書を送ってくる。

2、厚生労働省の労災の判断事情にカスハラが追加へ

厚生労働省はうつ病等の精神障害について業務災害に該当するかどうかを判断するため、『精神障害の労災認定』をまとめています。

これまでも厚生労働省は心理的な負荷が大きい業務などを類型化して労災の判断材料としていましたが、仕事が原因でうつ病などを発症した場合の労災の認定基準について、顧客や取引先からの迷惑な言動であるカスハラを心理的負荷が大きいものの類型に追加することを決めました。

6月20日の厚生労働省の検討会では報告書を公表し、カスハラによる労災の認定基準の改正を進めることになりました。
労災認定基準の「認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること」が定められており、今後、心理的負荷に関して、カスハラの具体的な事実が明記されることになります。
カスハラによってうつ病等の精神障害が発症した場合、それが労災になるかどうかが、より判断し易くなります。

3、カスハラと介護事業所の安全管理

労災認定基準にカスハラを詳細化することで、介護事業者としては、今まで以上に職員を守るための安全管理体制を強化する必要があります。
クレーム対応は建設的・前向きな仕事ではなく、辛いものですが、たまたま現場に居合わせた職員や、クレーマーに付け込まれる原因を作った職員に対応を丸投げしてしまうと、職員は精神的に追い詰められてしまいます。カスハラの加害者、悪質なクレーマーは、現場職員をターゲットにして執拗な攻撃をすることも多いといえます。

介護事業所では、カスハラ問題が起きた際にフタをせず、誤魔化さず、事業所が一体となってカスハラ問題に向き合うべきです。そのためには、介護事業所での迎撃体制、役割分担、警察や弁護士との連携も重要です。
またカスハラ加害者、クレーマーとの面談の方法や時間・場所の調整、対応窓口の一本化、面談の録音や記録、想定問答の準備なども有効です。
そして、
①被害に遭った職員からの事実確認
②事業所での役割分担
③担当職員の変更や配置調整
④契約解除
などが特に重要です。
なお、カスハラの言動が脅迫や強要など違法状態にある場合は、警察への被害申告、弁護士による警告文の送付、対応窓口の弁護士への切替なども有効です。

弁護士法人リーガルプラス代表弁護士 東京弁護士会所属
介護法務研究会(C-LA)代表
谷 靖介(たに やすゆき)
石川に生まれ、東京で幼少期を過ごす。1999年明治大学法学部卒業、2004年弁護士登録。日本弁護士連合会の公設事務所プロジェクトに参加し、2005年、実働弁護士ゼロ地域の茨城県鹿嶋市に赴任。翌年には年間500名以上の法律相談を担当し、弁護士不足地域での法務サービスに尽力する。弁護士法人リーガルプラスを設立し、複数の法律事務所を開設し、介護医療事業への法務支援に注力。経営者協会労務法制委員会講師を務めるなど、講演経験やメディア出演も多数。

一覧へ戻る

0120-13-4895

お問合せ