Vol.2: セクハラ問題について
- 2018年10月 Legal Care News Vol.2 PDFで見る
今回のニュースレターでは、多くの介護職員が悩む「利用者や家族から職員へのセクハラ問題」について、法律面から取り上げます。
一.セクハラ対策は重要!
介護職員が、利用者や家族から受けるセクハラやパワハラが問題になっています。高齢者の性的欲求は非常にデリケートな問題で、職員から「利用者にセクハラをされている」と相談があった場合、対応に困ってしまう事業者は少なくありません。
例として、女性職員が男性利用者に1対1でサービスを提供し、利用者と職員の身体的な距離が特に近い入浴・着替え・移乗・移動などの介護時には、特にセクハラが起きやすいといえます。また、利用者の家族と2人きりになったりする時もセクハラが起きやすいといえるでしょう。
特に訪問介護の利用者の自宅は、介護施設と違い、第三者の目が届きにくい環境にあります。しかも、利用者や家族にとっては日常空間のため、自分のテリトリーとしてハラスメントの意識が低いまま振る舞う方も多いといえます。
セクハラの内容としては、「不必要に体に触れる」が非常に多く、「性的な冗談を繰り返す」「身体の一部をじっと見る」なども含まれます。
このような利用者や家族による職員へのセクハラを防ぎ、職員の身体精神の安全を確保することが、事業者にとっては不可欠といえます。
二.事業者の責任
事業者は、「男女雇用機会均等法」や「労働契約法」といった、職雇用契約上の安全配慮義務に基づき、職員を利用者のセクハラから守る責任を負っています。利用者から職員へのセクハラを事業者が放置していたり、適切な対策をとらない場合や利用者からのセクハラ被害を相談して協力を求めたにもかかわらず事業者が何ら具体的な対策をとらない場合、この安全配慮義務に違反したものとして、職員に対して、損害賠償義務を負います。
まだ先例は多くありませんが、今後、利用者のセクハラを原因とした、職員による事業者への損害賠償請求が増える事態も十分に考えられます。
三.加害者の責任
【刑法】
セクハラの中でも特に悪質なものは、強制性交罪や強制わいせつ罪として処罰されます。また、例えばそれが誹謗中傷であった場合、名誉毀損罪、侮辱罪が成立します。また、ひわいな画像などを見せた場合、わいせつ物陳列罪などに抵触することもあります。
【民法】
加害者は不法行為者として、被害者に対して損害賠償義務を負います。加害者である利用者に対してどこまで法的措置を進めるかは、被害にあった職員や事業所の方針にも関係します。
四.セクハラ防止対策
- 【対策例】
- ・利用規約の見直し
- ・介護サービス利用時の禁止行為の明示(犯罪行為になることや民事賠償問題になること)
- ・職員研修などでセクハラ行為を受けたときのかわしかた
- ・セクハラ情報の共有と速やかな担当者変更
- ・顧問弁護士の表示
- ・事業所同士で悪質な利用者のブラックリストを共有する
- ・相談窓口の開設
あまりにもひどいセクハラに対しては、利用者に対して、サービスの提供自体を断るという選択肢を事業者も持つべきでしょう。悪質な利用者の存在で、貴重な人材を失うことは避けなければなりません。
また、上述したように、配慮を怠った不適切な対応により、事業者が職員から訴えられる可能性も十分に考えられます。厚生労働省でも実態調査を進め、今年度中に介護事業者向けの対策マニュアルをつくる方針のようで、今後、このマニュアルの把握も重要になるでしょう。
利用者から職員へのセクハラ対策について、弁護士にご質問がありましたら、ぜひお問合せください。
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弁護士法人リーガルプラス代表弁護士 東京弁護士会所属
介護法務研究会(C-LA)代表
谷 靖介(たに やすゆき)
石川に生まれ、東京で幼少期を過ごす。1999年明治大学法学部卒業、2004年弁護士登録。日本弁護士連合会の公設事務所プロジェクトに参加し、2005年、実働弁護士ゼロ地域の茨城県鹿嶋市に赴任。翌年には年間500名以上の法律相談を担当し、弁護士不足地域での法務サービスに尽力する。弁護士法人リーガルプラスを設立し、複数の法律事務所を開設し、介護医療事業への法務支援に注力。経営者協会労務法制委員会講師を務めるなど、講演経験やメディア出演も多数。