Vol.7: 高齢者の「囲い込み」や「面会妨害」と介護事業所としての対処
- 2019年3月 Legal Care News Vol.7 PDFで見る
今回のニュースレターでは、高齢者の「囲い込み」や「面会妨害」と介護事業所としての対処についてご説明します。
一.はじめに
高齢者の財産をめぐって「囲い込み」トラブルが起きることがあります。親の面倒を見ている子が、兄弟姉妹など他の親族と親との面会を妨害するといったものです。
囲い込みをした子が、時には、他の兄弟姉妹に隠れて、親の預貯金を使い込んだり、自分に有利な遺言をつくらせたり、財産管理契約を締結してしまうようなことがあります。私も弁護士として囲い込み事案の法律相談をお受けしたことがあります。
「母がどこに行ったかわからない」「母との面会を妨害させられている」「親の不動産がいつのまにか処分されている」「父がどこか知らない有料老人ホームに入所させられている」など、親と会えない子は、不安な気持ちがとても大きくなります。
介護施設の管理者の方から「身元引受人や利用契約に関わったキーパーソンの親族が、親の囲い込みを進めており、施設職員に他の親族と面会をさせないよう要請してくる」「利用者と親族を面会させたら、キーパーソンの親族がクレームをつけてきた」などの話を聞いたこともあります。
二.裁判所の決定
平成30年6月、横浜地裁において、ある兄妹間のトラブルに関して、親の囲い込みを禁止する決定が出ました。報道によれば、施設で暮らす認知症の両親に会おうとした女性が、兄から阻まれ、施設も面会を認めなかったというケースで、女性が面会妨害禁止の仮処分を申し立て、裁判所が兄と施設に対して妨害をやめるよう命じたという。
このような仮処分では、囲い込みに協力した施設も裁判の当事者になってしまいました。
三.法的な問題
主として親の財産を自分が多く取得するために行われる囲い込みは今後、さらなる増加の懸念があります。
日本の金融資産や不動産の多くは高齢者層が保有しており、高齢者が要介護状態になった場合などに、親の面倒を見る親族がその財産を狙う事態が起こりがちです。
親を長期間にわたって自宅から出さないなどの場合には、刑法の監禁罪が成立する可能性はありますが、警察は親族間の紛争であれば捜査を行うことは多くありません。また、当たり前ですが、施設での入所はこのような刑法上の監禁罪の問題は生じません。
刑法には親族相盗例(一定関係にある親族間の財産犯罪を免除するもの)があるため、親族間の財産問題を警察が捜査を行うことは稀です。そのため、財産問題に関しては、成年後見などの制度を活用するしかないのが現状です。高齢者が判断能力があれば、任意後見や信頼できる人物と財産管理契約を締結するなどの予防措置も重要です。
四.施設事業者としての対処
このようなトラブルに対して、介護事業者はどのように対処すれば良いでしょうか。
施設事業者にとって、このようなトラブルに巻き込まれる事態は避けたいものです。
また、キーパーソンの要請を受けて面会妨害などに協力すれば、今後、親族から訴えられるなどトラブルに巻き込まれることも心配されます。
介護事業者にとっては、
- 囲い込みといった民事問題には関与をしないこと
- 利用者の親族との面会などは施設が決めたルールに従って運用すること
などを施設利用契約に明記し、また、職員への教育も必要になるでしょう。
また、囲い込みトラブルに巻き込まれそうになった場合、早期に施設としてのスタンスや対処方針を示すことも重要です。
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弁護士法人リーガルプラス代表弁護士 東京弁護士会所属
介護法務研究会(C-LA)代表
谷 靖介(たに やすゆき)
石川に生まれ、東京で幼少期を過ごす。1999年明治大学法学部卒業、2004年弁護士登録。日本弁護士連合会の公設事務所プロジェクトに参加し、2005年、実働弁護士ゼロ地域の茨城県鹿嶋市に赴任。翌年には年間500名以上の法律相談を担当し、弁護士不足地域での法務サービスに尽力する。弁護士法人リーガルプラスを設立し、複数の法律事務所を開設し、介護医療事業への法務支援に注力。経営者協会労務法制委員会講師を務めるなど、講演経験やメディア出演も多数。