Vol.10: 相続発生時の介護者の寄与料の請求について
- 2019年8月 Legal Care News Vol.10 PDFで見る
これまで、長男などの子の妻(いわゆる「お嫁さん」)が、夫の親(義理の両親)と同居しながら介護をしても、お嫁さんには遺産を相続する権利がありませんでしたが、令和元年7月1日より施行された民法の相続法改正では、介護に貢献した相続人以外の親族に、相続人に対する金銭請求権が認められることとなりました。
一. 「お嫁さん」には、義理の親の遺産を譲り受ける権利がなかった
遺産を相続する権利が認められるのは、「法定相続人」です。相続人以外の人物は、たとえ義理の両親と同居していても遺産相続できません。
そして、被相続人を介護した「相続人」には、「寄与分」(被相続人の財産維持や形成に特別の貢献をした部分)が認められる可能性がありますが、寄与分が認められるのは「法定相続人」だけです。
従来、長男の妻(お嫁さん)といった、法定相続人ではない親族が介護に従事していても、寄与者本人の寄与分はならず、「(夫などの)法定相続人自身の寄与分」として、一定の考慮が行われていました。
お嫁さんが義理の両親の療養看護を行ったにもかかわらず、一切の遺産の分配も認められない、不合理な状態になっていました。
二.法改正でお嫁さんの寄与が金銭で認められるようになる
今回の相続に関する民法改正で、被相続人の介護や看病に貢献をした「親族」には「特別寄与料」として金銭請求権が認められるようになりました。
特別寄与料の請求が認められる相続人以外の親族は、一定の範囲の「親族」です。
この「親族」の範囲は、被相続人の6親等以内の血族(自分の親や子ども、兄弟姉妹などの「直接血のつながりのある親族」)と被相続人の3親等以内の姻族(長男の妻などは自分とは直接血のつながりのない親族)となります。
特別寄与料の請求方法は、遺産の相続人に対して口頭や書面などの任意の方法で申し出れば足ります。話し合いをしても解決できない場合、家庭裁判所に申し立てをして、特別寄与料についての審判を受ける必要があります。
この申し立ては、基本的に被相続人の死亡から6ヶ月以内、死亡の事実を知らなかった場合でも死亡時から1年以内に申し立てなければなりません。
その算出方法の実務は未確立ですが、従来の介護に従事した相続人寄与分と同様に考えれば、介護がなければ実際にかかるはずだった介護保険料などを基準にして、介護日数をかけ算して特別寄与料を計算します。
三.お嫁さんが財産を受け取る方法
介護に従事したお嫁さんが 寄与料請求とは別に、遺産を受け取る代表的な方法は下記となります。
- 養子縁組
養子縁組して相続人となる方法です。 - 遺言書の作成
遺言書を活用すると、長男の妻や内縁の配偶者など相続権のない人にも財産を遺贈することができます。 - 生命保険の利用
死亡保険金の受取人をお嫁さんなどにし、献身的に介護してくれた人に指定しておけば、寄与が報われる形になります。 - 生前贈与
生前に先に財産を移転する方法です。贈与税対策は不可欠です。
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弁護士法人リーガルプラス代表弁護士 東京弁護士会所属
介護法務研究会(C-LA)代表
谷 靖介(たに やすゆき)
石川に生まれ、東京で幼少期を過ごす。1999年明治大学法学部卒業、2004年弁護士登録。日本弁護士連合会の公設事務所プロジェクトに参加し、2005年、実働弁護士ゼロ地域の茨城県鹿嶋市に赴任。翌年には年間500名以上の法律相談を担当し、弁護士不足地域での法務サービスに尽力する。弁護士法人リーガルプラスを設立し、複数の法律事務所を開設し、介護医療事業への法務支援に注力。経営者協会労務法制委員会講師を務めるなど、講演経験やメディア出演も多数。