介護ニュースレター

Vol.11: 利用者や家族から職員へのハラスメント対策の基本

2019年11月 Legal Care News Vol.11 PDFで見る

今回のニュースレターでは「利用者や家族から職員へのハラスメント対策の基本」についてお伝えします。

一.ハラスメントの現状

介護事業の現場では、日々、利用者や家族等による介護職員への身体的ハラスメント、精神的ハラスメント、セクシュアルハラスメントなどが発生しています。
ハラスメント行為を法的な面からみれば、介護職員や事業者への権利侵害です。
もっとも、利用者や家族等の置かれている環境や生活歴はそれぞれ異なり、職員と利用者との関係、家族との相性、ハラスメント行為の程度や状況などにより、対応も異なります。
深刻なハラスメント被害を受けている職員がその被害を相談しない理由として、相談しても解決しないと思う、認知症に伴う周辺症状(だから仕方ない)、自分自身で対応できている、問題が大きくなると面倒、相談したことが相手に知られると怖い、誰に相談すれば良いかわからない、などが指摘されています。

二.ハラスメント対策

ハラスメント対策を進めるにあたって、特に参考となる重要資料としては、厚労省の「介護現場における ハラスメント対策マ
ニュアル」(平成31年3月、株式会社三菱総合研究所、以下「厚労省マニュアル」)があります。
https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000532737.pdf
厚労省マニュアルのポイントは下記となります。

  1. ハラスメントの定義
  2. ハラスメントを受けた職員の割合(事業所、
    利用者や家族の別)
  3. ハラスメント発生要因
    • ・利用者、家族等の性格又は生活歴
    • ・サービス範囲の無理解
    • ・過剰な期待
    • ・認知症等の病気又は障害
  4. ハラスメントへの対応
    • ・啓発活動
    • ・利用者、家族等と事業者の相互確認
    • ・相談体制
    • ・情報共有
    • ・介護技術の向上
    • ・法制度の整備

厚労省マニュアルの補足としては、介護事業者がハラスメント対策を進めるにあたっては、ハラスメント研修プログラムの導入、精神疾患や認知症の勉強、職場での情報共有の定期開催、ハラスメントを許さない・我慢しない・相談できる雰囲気や文化作り、精神科医や行政介護課・介護係担当者との連携、サービス利用開始時にハラスメント行為の禁止を説明、契約書にサービス停止・解除を取り決める、契約範囲外のサービスができないことの説明、ハラスメントがなされた場合のマニュアル整備などが必要となります。

また、現場職員の意見も取り入れて課題共有を進め、事業所内に報告・相談しやすい窓口の設置も必要となります。

万が一、犯罪レベルのハラスメント被害が発生した際は、被害職員の意向もふまえつつ、断固たる措置をとる(警察への被害届、告訴、内容証明、民事賠償)という、事業者の「職員を守る」「覚悟をもって正面からハラスメント問題に取り組む」姿勢も必要となります。

これらは、言うは易し、実行するは難し、といった全事業所を巻き込んだ問題ですが、介護職員の職場環境を守り、健全な事業運営を図るためにも、ぜひとも、少しずつ取り組んでほしいものです。これら体制作りや書式の整備、ハラスメント被害発生時のご相談は随時お受けしていますので、お気軽にお問合せください。

それぞれの事業者がより充実したハラスメント対策体制を確立し、個別問題に適切に対処できるよう、弁護士として尽力したいと思います。

弁護士法人リーガルプラス代表弁護士 東京弁護士会所属
介護法務研究会(C-LA)代表
谷 靖介(たに やすゆき)
石川に生まれ、東京で幼少期を過ごす。1999年明治大学法学部卒業、2004年弁護士登録。日本弁護士連合会の公設事務所プロジェクトに参加し、2005年、実働弁護士ゼロ地域の茨城県鹿嶋市に赴任。翌年には年間500名以上の法律相談を担当し、弁護士不足地域での法務サービスに尽力する。弁護士法人リーガルプラスを設立し、複数の法律事務所を開設し、介護医療事業への法務支援に注力。経営者協会労務法制委員会講師を務めるなど、講演経験やメディア出演も多数。

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