Vol.12: パワーハラスメント防止体制の必要性について
- 2020年2月 Legal Care News Vol.12 PDFで見る
今回のニュースレターでは「パワーハラスメント防止体制の必要性」についてお伝えします。
医療機関や介護機関ではパワーハラスメント(以下「パワハラ」)が起きやすい
医療従事者や介護従事者の仕事は、ミスが許されない高度な緊張を強いられるものです。
また、利用者や家族への感情労働の側面もあり、対人関係のストレスは非常に高く、パワハラなどが起きやすい労働環境にあります。
ハラスメント問題が社会で注目される中、2019年に労働施策総合推進法が改正され、パワハラ防止措置に関する法律が整備されました。施行時期は大企業が2020年6月1日、中小企業が2022年4月1日となっています。
同改正法において、パワハラの定義は、 ①優越的な関係を背景とした、②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により ③就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)の3要素のいずれも満たすものとされました。
改正法では、事業主が労働者の相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じる義務が明記されており、介護事業者も、パワハラ防止の体制構築義務が課されることになります。
パワハラ裁判例
もっとも、業務上の注意や指導がパワハラになるのかどうかは、特に注意が必要です。
ここでは、医療機関において、病院の管理者の言動がパワハラとは認定されなかった裁判例(医療法人財団健和会事件 東京地判平21.10.15)を取り上げます。
病院の健康管理室に事務総合職として採用された原告が、試用期間中に採用を取り消されたところ、同採用取消しは無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金、また、パワハラ行為及びいじめを受けて、さらに違法な退職強要及び採用取消しを受けたために精神疾患に罹患したとして約1170万円を求めた事案です。
判決では、原告の多数の事務処理や単純な作業ミスや原告が医療従事者として業務の勤務姿勢に欠けること、正確性を要請される医療機関においては見過ごせないものとし、原告の病院における業務遂行能力ないし適格性の判断において相応のマイナス評価を受けるものとの事実認定をふまえて、「一般に医療事故は単純ミスがその原因の大きな部分を占めることは顕著な事実であり、そのため、Aが、原告を責任ある常勤スタッフとして育てるため、単純ミスを繰り返す原告に対して、時には厳しい指摘・指導や物言いをしたことが窺われるが、それは生命・健康を預かる職場の管理職が医療現場において当然になすべき業務上の指示の範囲内にとどまるものでああり、到底違法ということはできない。」と判示し、病院側の原告に対する安全配慮義務違反及び不法行為責任が否定されました。
職務のミスが、深刻な生命健康身体被害へと直結する医療現場においては、時には、厳しい注意や指導は不可欠です。そのことをハッキリと明示した裁判例であり、職務ミスが同様の事態を招きかねない介護従事者にも、厳しい注意や指導が必要な介護従事者にとっても、先例的価値があるといえる裁判例といえるでしょう。
介護事業者としてパワハラ防止体制を
パワハラ問題の発生や拡大の防止のためには、全従業員(管理職、役員含む)に対するパワハラ防止研修、労務・人事部署に苦情やハラスメント被害の相談窓口設立・運営の整備が必要です。また、パワハラ防止規定の整備、相談員の育成、報告書式の統一、社内懲戒処分の整備なども進める必要があります。
リーガルプラスでは、これら対応のご相談も随時お受けしています。
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弁護士法人リーガルプラス代表弁護士 東京弁護士会所属
介護法務研究会(C-LA)代表
谷 靖介(たに やすゆき)
石川に生まれ、東京で幼少期を過ごす。1999年明治大学法学部卒業、2004年弁護士登録。日本弁護士連合会の公設事務所プロジェクトに参加し、2005年、実働弁護士ゼロ地域の茨城県鹿嶋市に赴任。翌年には年間500名以上の法律相談を担当し、弁護士不足地域での法務サービスに尽力する。弁護士法人リーガルプラスを設立し、複数の法律事務所を開設し、介護医療事業への法務支援に注力。経営者協会労務法制委員会講師を務めるなど、講演経験やメディア出演も多数。