Vol.13: 介護事業所におけるコロナ問題の労務管理QA
- 2020年5月 Legal Care News Vol.13 PDFで見る
今回は、介護事業所におけるコロナ問題の労務管理について、特に意識
したい内容をQA形式で取り上げました。
コロナ特別手当
感染リスクを負いながらも働く現場の職員に対して、特別手当を支給することはできますか?
報道によれば、大手介護事業者では、緊急事態宣言発令期間中、介護職員に1日数千円の特別手当を支給する例もあります。介護現場は身体接触も多く医療現場同様に感染リスクがあり、また、クラスター(感染者集団)発生リスクもあることから、リスクに報いる手当の導入は、職員のモチベーション向上にも繋がるといえます。
無限定の手当とならないよう、特別手当の定義・支給条件・期間などは整備し、労使協約や個別職員との合意取り付けなどを進めましょう。
コロナ疑いと休業手当
職員から「微熱と咳が続いているが、仕事はしたい」という申し出がありました。コロナ感染の疑いがあり、自宅待機を命じる場合、賃金を支払わなければなりませんか?
介護事業者が自宅待機を命じることは可能です。職員は仕事ができる状態にあるものの、介護事業者の判断によって職員が働けないことになります。
この場合、介護事業者は少なくとも休業手当(平均賃金の6割以上)を支払う必要があります。
もっとも、強引な自宅待機はトラブルを招きやすく、どのような場合に職員に自宅待機を命じることができるか、労使で基準やルールを整えることをお勧めします。
コロナ疑いと有休処理
コロナ感染の疑いがある職員に自宅待機を命じる場合や休業による自宅待機を命じる場合、有給休暇を使用させても良いですか?
職員本人が有休として処理して欲しいと希望し、それに介護事業者が応じることは問題ありません。申請事務処理を行いましょう。有休を強制的に使用させることは違法なため、止めましょう。
コロナ感染と労務管理責任
仕事が原因で、職員がコロナに感染した場合、どうなりますか?
通勤中や仕事中に職員がコロナに感染してしまった場合、労災保険法に基づき休業補償の対象
となります。
また、介護事業者の管理体制に問題があれば、労災保険の休業補償以上の補償を介護事業者が行わなければなりません。
【重要】
調査しても感染源がわからない場合、直ちに補償を行うかは注意が必要です。労災申請は進めても、労災原因の介護事業者証明は慎重に行う必要があります。
介護事業者の責任
仕事が原因で職員がコロナに感染した場合、どのような場合に介護事業者は責任を問われますか?
介護事業者側に『落ち度』があった場合、職員の感染について責任を負います。介護施設では、〔厚労省の示しているコロナ感染拡大防止措置を図っているか〕が重要です。①施設や部署ごとに感染防止対策マニュアルを整備する、②オンライン研修や資料配布などで職員への教育周知を徹底する、といった対策が必要です。また、万一の場合に備え、労災上乗せ保険の加入や見直しもご検討ください。
(参考)介護事業所等における新型コロナウイルス感染症への対応等について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00089.html
感染防止ルールに協力しない職員
勤務中にマスクを着用しない、手洗いをしない、三密(密閉、密接、密集)で感染リスク行為を止めない、といった職員にはどうすればよいですか?
介護事業者として考えなければならないのは、感染の予防と職員の生命、身体の安全です。まずはルールを守らない職員に感染防止の重要性を説明し、注意しましょう。会議に出席させない、他の職員から距離を置いて業務を行ってもらう、場合によっては自宅待機を命じる等により対応すべきと考えます。実務上は懲戒処分も可能です。
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弁護士法人リーガルプラス代表弁護士 東京弁護士会所属
介護法務研究会(C-LA)代表
谷 靖介(たに やすゆき)
石川に生まれ、東京で幼少期を過ごす。1999年明治大学法学部卒業、2004年弁護士登録。日本弁護士連合会の公設事務所プロジェクトに参加し、2005年、実働弁護士ゼロ地域の茨城県鹿嶋市に赴任。翌年には年間500名以上の法律相談を担当し、弁護士不足地域での法務サービスに尽力する。弁護士法人リーガルプラスを設立し、複数の法律事務所を開設し、介護医療事業への法務支援に注力。経営者協会労務法制委員会講師を務めるなど、講演経験やメディア出演も多数。