介護ニュースレター

Vol.17: 悪質な問題行為を起こした職員への懲戒処分

2021年5月 Legal Care News Vol.17 PDFで見る

介護事業の現場では、悪質な問題行為を起こした職員に対して、事業所の秩序維持、職員や利用者の安全のため、懲戒処分が必要になる場面があります。そこで今回は、懲戒処分のポイントについて解説します。

職員による悪質な問題行為の例

  1. 度重なる遅刻や無断早退・欠勤などの勤務態度の著しい不良
  2. パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどの職場秩序違反
  3. 利用者に対する虐待や窃盗
  4. 事業者の名誉や信用の毀損、横領や背任など

懲戒処分の進め方

事実調査→処分内容の検討→職員への弁解機会の付与→懲戒処分の発令といった進め方となります。

1.事実調査

問題行為の裏付けがあるか、資料や記録から問題行為の事実認定ができるか、が重要となります。関係者からのヒアリング、報告、問題職員のPCログ、業務メール、業務スマホの通信履歴などの調査を進めた上で、できるだけ客観資料の収集を進めます。
パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどは、当事者以外の第三者の証言も重要です。利用者に対する問題行為は、利用者や家族からのヒアリングも必要でしょう。

2.職員の自宅待機命令

懲戒処分の当否を判断するため、業務命令としての自宅待機命令は一般に適法です。
もっとも、緊急対処や調査のために必要な期間を大きく超えて期間を定めた自宅待機命令については、職員を辞めさせる目的と見做され、裁量権の範囲を超えて違法・無効となる可能性があり、注意が必要です。また、事実調査のための自宅待機期間中には、事業者は原則として賃金の支払い義務があります。

3.弁明の機会の付与

懲戒処分は、企業秩序違反に対する制裁としてなされる処分です。懲戒処分は労働者にとっては重大な不利益を受ける処分であり、刑事罰に類似するため、事実誤認に基づく処分はあってはならず、また問題行為の内容に応じた「処分の相当性」も求められます。
そこで、懲戒処分の対象者である職員に弁明の機会を与えることは、事実認定を適切に行うために、また、処分の適正さを担保する手続保障のために必要となります。

4.懲戒処分

代表的な懲戒処分は、①譴責(けんせき、書面での反省を求めること)、② 減給、③出勤停止、④諭旨解雇(ゆしかいこ、事業者と従業員合意での解雇)、⑤懲戒解雇となります。懲戒解雇は、普通解雇とは異なり、使用者の懲戒権の行使としての解雇であり、使用者が職場秩序維持を目的として課す制裁となります。
これらの懲戒権を行使するためには、就業規則に懲戒の理由となる事由とそれに対する懲戒の種類が職員に周知されている必要があります。また懲戒処分を法的に有効とするためには、事業所が注意や教育・研修を行ってきたなの事情も考慮されます。普段から従業員に対する指導や注意などは記録することが必要になります。
懲戒が行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その懲戒処分は無効となります(労働契約法15条。懲戒権濫用法理)。特に懲戒解雇の場合は、労働者としての地位を奪うものですので、合理性及び相当性が厳しく判断されます。
例えば、利用者への虐待行為は、事業に深刻な影響を及ぼすものですが、虐待のきっかけ、理由、程度、悪質性、職員が虐待を認識していたか、虐待防止の教育をされていたかなどを考慮して懲戒解雇の可否を判断する必要があります。

退職勧奨

職員の問題行為の認定はできたが、懲戒解雇までは難しい場合が多くあります。このような場合に無理に解雇まで行うと、職員側が弁護士を立てて、解雇無効の法的措置(地方裁判所での仮処分、労働審判、訴訟)を起こし、解雇が無効とされ、解決までに相当な時間や費用がかかることがあります。
事業者としては「問題行動を起こした職員に辞めてもらう」ためには、職員に自主退職を促すこと(退職勧奨)も検討すべきです。この場合、退職金の上乗せや解決金の提示、転職の猶予期間の設定、出勤免除などのオプションを提示して、退職に誘導することも時には有効です。

弁護士法人リーガルプラス代表弁護士 東京弁護士会所属
介護法務研究会(C-LA)代表
谷 靖介(たに やすゆき)
石川に生まれ、東京で幼少期を過ごす。1999年明治大学法学部卒業、2004年弁護士登録。日本弁護士連合会の公設事務所プロジェクトに参加し、2005年、実働弁護士ゼロ地域の茨城県鹿嶋市に赴任。翌年には年間500名以上の法律相談を担当し、弁護士不足地域での法務サービスに尽力する。弁護士法人リーガルプラスを設立し、複数の法律事務所を開設し、介護医療事業への法務支援に注力。経営者協会労務法制委員会講師を務めるなど、講演経験やメディア出演も多数。

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