Vol.18: 介護事業所でのコロナワクチン接種問題
- 2021年8月 Legal Care News Vol.18 PDFで見る
社会全体で新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、コロナ禍も新たなステージに移ってきたかに思えます。
本ニュースレターでは、コロナワクチンの接種問題について、ワクハラ防止の観点もふまえて解説します。
1.コロナワクチンの接種は職員の義務とできない
ワクチンを接種すべきかどうかは、ワクチンへの知識・信頼度・理解度や副反応への捉え方などもあり、人により判断は様々です。
ワクチンの接種は感染症予防の効果と副反応のリスクの双方を理解した上で、自らの意思で接種を受けることが重要であり、強制されるものではありません。介護事業所においてもこの視点は不可欠です。
介護事業の管理者はできるだけ多くの職員にワクチンの接種を受けて欲しいと考えるでしょうが、法的義務のないワクチン接種を強制させることはできません。
2.ワクハラの禁止
「ワクハラ(ワクチンハラスメント)」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか?職場や周りの方などがワクチン接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な取り扱いや嫌がらせ、不利益な取り扱いをすることです。一部の医療機関や介護施設で「ワクチンを打たなければクビにする」といった違法な解雇を通告するような極端なワクハラが行われているとの報道も耳にします。
悪質なワクハラは、ワクチン接種の自由という人権侵害性が強く、大きな労働問題や管理者側の損害賠償問題にもつながりかねないため、注意が必要です。
3.ワクチン接種情報は要配慮個人情報
ワクチン接種情報は、重要な健康医療情報として、要配慮個人情報にあたります。
そのため、介護施設が職員からワクチン接種情報を取得する際は、本人の同意を得なければなりません。
また、取得情報の利用目的を特定の上で、本人に通知をする必要があります。
具体的には、施設長や管理職から、職員に下記のような説明をして、本人からワクチン接種予定や接種歴を聞き取ることが考えられます。
- 接種のための欠勤早退の処理や特別休暇の付与要否判定のため
- 発熱や体調不良時にワクチン接種の副反応かコロナ罹患病状なのかの判定のため
- 部署内や利用者に陽性者が発生した時に、職員への感染リスクや重症化リスクの判定のため
もっとも、ワクチン接種の有無に関わらず、本人が頑なに情報提供を拒否した場合には情報を得ることは困難となります。
なお、事業所全体でのワクチン接種率の把握のため、任意でのアンケートの実施などは考えられますが、職員の不信感を招かないよう、匿名性への配慮などが必要となります。
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弁護士法人リーガルプラス代表弁護士 東京弁護士会所属
介護法務研究会(C-LA)代表
谷 靖介(たに やすゆき)
石川に生まれ、東京で幼少期を過ごす。1999年明治大学法学部卒業、2004年弁護士登録。日本弁護士連合会の公設事務所プロジェクトに参加し、2005年、実働弁護士ゼロ地域の茨城県鹿嶋市に赴任。翌年には年間500名以上の法律相談を担当し、弁護士不足地域での法務サービスに尽力する。弁護士法人リーガルプラスを設立し、複数の法律事務所を開設し、介護医療事業への法務支援に注力。経営者協会労務法制委員会講師を務めるなど、講演経験やメディア出演も多数。