Vol.27: 介護現場における労災問題①
- 2023年11月 Legal Care News Vol.27 PDFで見る
今回のニュースレターでは、介護事業所における職員の労災問題に関する基本知識を取り上げました。
介護の現場では、深刻な職員の労災事故が起きれば、労働意欲の低下や離職者の増加など、悪いサイクルが起きてしまいます。労災に伴う諸問題を決して軽視せず、労災が起きにくい事業所作りの参考となれば幸いです。
1、介護現場での労災
介護の現場では、労働災害(いわゆる「労災」)が発生することがあります。
介護労働を原因として職員が大きな怪我をした場合や、業務上の事故について施設の安全管理責任が認められた場合、介護施設側は様々な法的責任を負うことになります。
そのため、介護事業者は、普段から労働環境を整備し、労災事故の発生予防に取り組み、また、発生時の対応について知識を備えておくことが必要です。
ここでは、介護現場の労災に関する基本的な事項をお伝えします。
2、労災が起きやすい環境(人手不足)
人手不足の介護現場は労災が起きやすいといえます。
職員の長時間労働が常態化すれば職員の疲労が取れず、生活リズムが崩れてしまい、欠員が出やすくなります。その結果退職者が増え、定着率が悪くなり、慢性的な人手不足となります。
また、人手不足のままでは、入社後の十分な教育やフォローが行き届かず、職員の余力もないまま現場対応を続け、結果として労災事故も発生しやすくなるという悪いサイクルがあります。
3、介護事業における労災事故の種類
労働災害(労災)とは、労働者が業務上で負傷・疾病・死亡などの死傷病の被害に遭うことです。
この労災には、身体の怪我だけではなく、過重労働やセクハラ・パワハラなどによる精神障害なども労災と認定される場合があります。以下、具体的に見ていきましょう。
1.身体の労災事故
介護は身体介護時に利用者の身体の持ち上げや移動、移乗など身体労働であり、体重の重い利用者を持ち上げる際や、長年の介護で腰痛が発生するケースが多くあります。また、身体介護中利用者の身体を支えようと一緒に転んでしまう等、利用者を守ろうとして怪我を負うケースも多々みられます。厚生労働省の報告では、滑り、躓き、踏み外しなどによる転倒や動作の反動・無理な動作による労災などが挙げられています。
施設内のトイレ、浴室、脱衣所、ちょっとした段差など、転倒につながりやすい箇所での労災が懸念されます。
2.精神的な労災
介護労働は感情労働でもあり、利用者への丁寧な対応でメンタル面において疲労が生じやすく疲れやすいものといった性質があります。
そして、利用者やその家族からの悪質なハラスメント、不合理なクレームなどが続くと、うつ症状になり、仕事ができず、休職や退職になってしまう職員もいます。
これも、一定の条件を満たせば労災となります。
4、重大な労災事故に伴う事業所経営への影響
事業者として重大な負担は、介護職員から損害賠償請求を受けることです。
労災となった職員から介護事業者の安全配慮義務違反を理由とした損害賠償の請求を受けるリスクがあります。
たとえば、
- ・長時間労働を黙認していたところ、職員に脳梗塞等の脳疾患が発生してしまい深刻な後遺障害を負ってしまった場合
- ・利用者から職員に対するハラスメント改善対応をしないことによる精神疾患が発症した場合
といった深刻な事態では、事業者が職員から安全配慮義務違反として責任を問われ、訴訟などを通じて多額の損害賠償責任を負うことがあります。
また、下記のようなリスクも存在します。
- 労働基準監督署から行政指導等の処分を受けるリスク
- 死亡事故などの重大な事故であれば事業者やその代表に刑事罰(業務上過失致死傷罪)が科されるリスク
- 新聞・テレビなどの報道やSNS・ネット上の口コミ、記事掲載などによる評判低下などのリスク
このようなリスクが顕在化すれば、職員の就労意欲の低下、離職者の発生、利用者離れによる収益減少など、経営そのものが危ぶまれます。
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弁護士法人リーガルプラス代表弁護士 東京弁護士会所属
介護法務研究会(C-LA)代表
谷 靖介(たに やすゆき)
石川に生まれ、東京で幼少期を過ごす。1999年明治大学法学部卒業、2004年弁護士登録。日本弁護士連合会の公設事務所プロジェクトに参加し、2005年、実働弁護士ゼロ地域の茨城県鹿嶋市に赴任。翌年には年間500名以上の法律相談を担当し、弁護士不足地域での法務サービスに尽力する。弁護士法人リーガルプラスを設立し、複数の法律事務所を開設し、介護医療事業への法務支援に注力。経営者協会労務法制委員会講師を務めるなど、講演経験やメディア出演も多数。