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2021年1月号: 労働契約終了時における法規制や手続き上の注意点について

L+PRESS 2021年1月 PDFで見る

労働契約終了時における法規制や手続き上の注意点について

コロナ禍による急速な景気悪化によって、多くの会社で人員削減(内定取り消し・雇止め・解雇など)が進められています。
もっとも、経営状況の悪化によってただちに従業員の解雇等を行えるものではありません。
今回は、労働契約終了時における法規制や手続き上の注意点について、以下、ポイントを解説します。

人件費の抑制方法として、大きくどのような方法がありますか?

日本の労働慣行は、長期雇用システムの下、新卒者(18歳~26歳)を定年(60歳、65歳)まで雇用し、就業年数で賃金を調整し、約40年の労働に見合う処遇となる年功型賃金制度を前提としています。そのため、労働法規制においても、人員採用は企業側の裁量を広く認めており、他方で、契約期間中の給与の不利益変更に制限があり、また、解雇等の会社都合による契約終了は厳しい規制が設けられています。
そこで、人件費の抑制方法としては、①採用抑制、残業抑制、②賞与減額、手当カット、昇給幅減少やストップ、非正規社員の雇止めを検討の上で、③出向や転籍、希望退職者の募集、退職勧奨、賃金体系の変更、基本給カット、④ 内定取り消し、整理解雇といった段階別の人員削減方法の検討が必要です。

有期労働者について、期間途中での解雇はできますか?

労働契約法第十七条には「使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」と定められています。有期雇用期間中の雇用存続が強く保障されており、期間途中で解雇をしなければ会社が破綻するような逼迫した状況がない限り、難しいといえます。

当社では出向や転籍、希望退職者募集では人件費削減効果に限界があるため、従業員に対する退職勧奨を検討しています。退職勧奨の注意点は何でしょうか?

退職勧奨は従業員の退職意思の形成を促す事実上の行為であり、性差別や障碍者差別などの事情がない限り、会社は従業員に対して自由に退職勧奨を行えます。
もっとも、退職勧奨は対象者に非常にショックを与えるものであり、実行にあたっては、(ア)退職日の設定と出社義務免除、(イ)月賃金×在籍年数の退職金の上乗せなどの補償は不可欠です。
また、複数人で威圧的に退職を迫ることや「退職するまで勧奨を続ける」と明言するなど、本人の自由意思を損なうような退職勧奨は厳に避けるべきです。

整理解雇はどのような場合に認められますか?

裁判例上、整理解雇が法的に有効となるためには、 ①人員削減の必要性、②整理解雇選択の必要性(解雇回避努力義務)、③被解雇者選定の妥当性、④手続の妥当性が重要な四要素とされています。
②整理解雇選択の必要性(解雇回避努力義務)については、会社の経営状態、会社規模、従業員構成、緊急性等をふまえた上で、Q1に示したような解雇回避施策の実施が不可欠です。コロナ禍においては、金融機関による資金繰り支援、政府や自治体からの給付金、補助金、雇用調整助成金などの情報収集・検討・申し込みも必要でしょう。
また、③被解雇者選定の妥当性については、勤怠状況・規律違反歴の考慮、客観的な人事考課を考慮することが必要です。
そして、④手続の妥当性については、労働協約で解雇協議条項が定められているか否かを問わず、従業員や労働組合に解雇の必要性、時期、人数、進め方等を十分な説明と協議を図り、経営情報の非対称性をふまえ、質問への回答や資料の提出要請には誠実に対応すべきです。

【東京法律事務所】
代表弁護士:谷 靖介(たに やすゆき)

プロフィール
東京弁護士会所属。明治大学法学部卒業後、2002年(旧)司法試験合格。2004年弁護士登録(司法修習57期)。リーガルプラスの代表として複数の法律事務所を経営しつつ、弁護士としては主に中小企業の法務労働問題、相続紛争業務を担当する。千葉県経営者協会労働法フォーラム、弁護士ドットコム(法律事務所運営)などの講師を務める。また、NHK、テレビ朝日、FLASH等のメディア取材や日経ヘルスケア、医療介護専門誌への寄稿も多数。趣味は読書、旅行。

遺産分割 Q&A

事例
被相続人が亡くなり、遺産は自宅土地建物、預貯金。
被相続人は、亡くなる約10年前に倒れて寝たきりとなり、自宅での療養を余儀なくされていた(要介護5)。
相続人は配偶者と子ら。結婚して家を出ていた子のうちの一人(A)が自宅に戻り、高齢の母に代わって、被相続人の生活(胃ろうや痰吸引、清拭等)の面倒をほとんど見ていたため、Aは寄与分を主張した。

結論
Aに400万円の寄与分を認めることを前提とした遺産分割調停が成立した。

寄与分はどのような場合に認められますか

寄与分とは、相続人の、被相続人に対する貢献の結果、被相続人の財産の維持・増殖がある場合に認められるものです。貢献の程度としては、親族間で通常期待される以上の「特別の」貢献が必要です。
様々な事情の総合考慮ですので、一律の基準はありません。
今回のケースは、要介護5の親の世話を無償で行ったこと、仕事がかなりセーブされて収入減少があったことなどから、裁判官から寄与分があると評価されたものです。
寄与分が認められるにはかなりの貢献が求められます。
遺産分割のご相談をお受けすると、週に1度親を見舞い(様子を見に行き)買い物に付き添ったことや、同居親の食事を作った(ただし食費として月々いくらかを受け取っていた)ことで寄与分が認められないのか、というご質問を受けることもありますが、残念ながらこのような理由だけで寄与分が認められる可能性はほとんどないといえます。

家族の世話をするときに気を付けた方が良いことはありますか

特に争いになりやすいのは生活費を被相続人の口座から引き出した場合です。
生活費がかかるのは当然ですから、引き出しがあること自体は問題ではありませんが、その金額の妥当性が問題とされるケースが非常に多くあります。生活費として正当な支出であるにもかかわらず、引き出し額が不当に高い、といわれてしまうのです。
この問題は、遺産分割調停の中で解決することもできますが、調停で解決できない場合、遺産分割とは別に、裁判を起こされてしまう可能性があります(不当利得返還請求訴訟、損害賠償請求訴訟)。
遺産分割の他に訴訟の対応をしなければならなくなり、心理的・経済的な負担が増えます。
施設利用料や介護サービス利用料、税金、保険料、医療費、水道光熱費、被相続人のための買い物等の領収証や、これらの支払いがされていた口座の通帳(古い物でも)は、しっかりと保管しておいてください。
資料があることでいざ遺産分割の問題が生じた際に、手続にかかる期間の短縮や、取得遺産額の減少といったデメリットを防止することが可能です。

【成田法律事務所】
所属弁護士:宮崎 寛之(みやざき ひろゆき)

プロフィール
中央大学法学部法律学科卒業、中央大学法科大学院修了後、弁護士登録(千葉県弁護士会)。日弁連裁判官制度改革・地域司法計画推進本部委員。平成29年度千葉県弁護士会常議員。主に、交通事故、労災事故、相続、離婚、中小企業法務(労務問題)を中心に活動を行うと共に、千葉県経営者協会労務法制委員会等の講演の講師も務める。

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