2022年10月号: 労働時間管理の実務と法的留意点
- L+PRESS 2022年10月 PDFで見る
労働時間管理の実務と法的留意点
2022年9月、千葉県経営者協会で行われた労務法制委員会において、「労働時間管理の実務と法的留意点」と題し、労働時間に関する基礎知識や近時の法改正、及び実務対応方法についてお話しさせていただきました。内容の一部をQ&A方式で解説します。
工場での作業開始時間を 8 時 30 分と定めていますが、工場に入る前、事務所内で作業着に着替えることを義務づけています。着替え時間も労働時間とすべきでしょうか。
本来着替えは男女とも 10 分あれば十分に可能ですが、30 分も前に来て、8 時から労働時間として計算すべきと主張しています。支払う必要はあるでしょうか。
実際の労働(工場内作業)と近接していること、使用者から出社後の着替えを義務づけていること等から、作業着への着替え時間として10分程度は労働時間として算定すべきと考えます。
他方、30分も労働時間とする必要はないと考えます。着替えを除けば8時30分より前に労働することを会社が指示しているとはいえず、労働者が会社の指揮命令下にあるとはいえないからです。
ただし、裁判例において、特別の事情がない限り、「事業所にいる時間=労働時間」と推定されています。工場での作業が始まっていなかったとしても、付随する業務(清掃や、当日の業務前の準備作業)をしていたとの主張がなされる可能性もあります。
そのため、随時タイムカードを確認し、早く出勤している従業員に対しては、その理由を確認し、始業時間より大幅に早い出勤をしないよう指示をしておく(かつその証拠を残す)とより安心でしょう。
残業代請求は社内でのトラブルや、退職を契機に、過去2年から3年遡って請求されることがほとんどです。早めに気付いて対応しておくことで、将来問題が顕在化することを防止できます。
テレワークを導入することになりました。これまでは、タイムカードを確認することで労働時間を管理していましたが、今後はどうしたらよいでしょうか。
社外から入力ができる勤怠管理システムを導入していればそれによることになるでしょうが、結局電子メールによる申告といった方法によることが簡便ではないでしょうか。
とはいえ、これは自己申告ですから、労働者の申告に任せておくだけでは、使用者に課せられた労働時間管理の義務を果たしているとはいえません。
そこで、客観的な記録であるPCのログや、社外の取引先との電子メールのやりとり等と申告された時間を照合して、労働時間を把握する必要があると考えます。
テレワークだと長時間労働になりがちという話を聞きますが、どのような対応が考えられるでしょうか。
「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」では、以下のような方法が紹介されています。
1.勤務時間帯以外にメール送信をしないよう努めること
2.外部から社内のシステムにログインして業務する場合は、システムへのアクセスができないようにすること
3.時間外・休日・深夜労働を原則禁止とすること
4.長時間労働を行う労働者へ注意喚起をすること
上記3~4については、制度を設けるだけでは足りず、もちろん実際の運用も大切です。
-
【成田法律事務所】
所属弁護士:宮崎 寛之(みやざき ひろゆき)- プロフィール
- 中央大学法学部法律学科卒業、中央大学法科大学院修了後、弁護士登録(千葉県弁護士会)。日弁連裁判官制度改革・地域司法計画推進本部委員。平成29年度千葉県弁護士会常議員。主に、交通事故、労災事故、相続、離婚、中小企業法務(労務問題)を中心に活動を行うと共に、千葉県経営者協会労務法制委員会等の講演の講師も務める。
交通事故解決事例
Aさん(当時6歳)は、駐車場内の横断歩道を歩行中、走行してきた自動車と接触し、左足背部挫創及び皮膚擦過傷の怪我を負いました。
左足の甲の皮膚が硬くなり、赤い瘢痕が残ってしまったのですが、保険会社による後遺障害申請では非該当となり、示談金15万円弱の提案があり、当事務所へご相談にいらっしゃいました。
1 再度の後遺障害申請(異議申立)
- 「手のひら大」の判断
保険会社による後遺障害申請の際の後遺障害診断書には、医師が記載した手書きの瘢痕の絵と、瘢痕の範囲が数値で記載されていました。
自賠責において、瘢痕が後遺障害にあたるかどうかは、瘢痕の大きさが「手のひら大」であるかどうかです。当初の後遺障害申請では、書面のみでの審査となり、手のひら大に該当しないとの判断になりました。 - 異議申立では意見書を提出し、面談を希望
そこで、意見書に当初請求では指摘のなかった事情を記載し、瘢痕の大きさがAさんの手のひら大に当たることを記載した意見書と、視覚的に瘢痕の状態が分かるよう写真を添付しました。 - 面談実施の上、14級認定へ
異議申立ての際には、調査事務所へ面談による瘢痕測定・審査を希望し、面談を実施した結果、14級に認定されました。
2 相手方保険会社との示談交渉
- 逸失利益
後遺障害が認められた場合には、多くの場合「逸失利益」という損害を請求できます。「逸失利益」とは、後遺障害による将来の減収分です。
外見に関する後遺障害については、モデルなど外見が重要視される職業を除き、将来の減収が認められることは難しいのが実情です。 - 慰謝料の増額
もっとも、外見の後遺障害は部位によって日常生活や精神的な負担が非常に大きいため、慰謝料が増額されます。
Aさんも、相手方保険会社からは逸失利益を否定されましたが、当方からは後遺障害慰謝料を増額するよう交渉し、通常の3割増で示談成立とすることができました。
入通院慰謝料についても、通院回数が少なかったため、当初の保険会社提案額は極めて低額でした。しかし、治療状況を補足して主張することで、入通院慰謝料については事前提案額から約9倍の金額まで増額できました。
弁護士が関わった意義
「異議申立てができたこと」
当初は後遺障害申請により非該当とされ、主治医の協力も難しいとのお話でしたので、Aさんのお父さんは「どうしたらよいかわからない…」とお困りでした。確かに、一度後遺障害申請で非該当となったケースで異議申立が通る確率は決して高くありません。
しかし、そこであきらめず、当初の申請では主張できていない部分を補足して異議申し立てをし、面談実施を求めたことで14級の認定を得ることができました。
「適切な示談内容を獲得できたこと」
今回は外見の後遺障害が残ったことで、将来の減収分は請求が難しく、そのかわり慰謝料の増額を求められるケースでした。このような原則とは異なるケースについては、漏れのない請求をすることは勿論、譲歩すべきは譲歩するのが適切な代理活動となります。当事務所で交通事故を数多く扱っているからこそ、短期間で適切な賠償金額での示談成立ができ、結果当初の提示額(約15万円弱)から約21倍の315万円へ増額できました。
-
【津田沼法律事務所】
所属弁護士:北岡 真理子(きたおか まりこ)- プロフィール
- 上智大学法学部卒業、上智大学大学院法務研究会修了後、弁護士登録(千葉県弁護士会)。主に、交通事故、労災事故、債務整理、相続、離婚、中小企業法務(労務問題)を中心として、「最善の解決策が何かをつねに検討し、それを実現させる」という気持ちを大切に、活動を行う。趣味は散歩や小旅行。