2024年9月号: カスハラについて
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カスハラについて
1 はじめに
近年、急速にカスハラが社会問題となりました。カスハラは、従業員のパフォーマンスの低下や離職などを含め、企業に多大な影響が生じるため、対策が必要です。
2 カスハラとは
カスハラとは、「カスタマーハラスメント」の略称です。カスハラの定義は法律で定められているわけではありませんが、厚労省カスハラマニュアルでは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・様態が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」とされています。つまり、カスハラとは、顧客からのクレーム(=何らかの要求が含む主張・苦情)のうち、不当なクレームを指します。反対に、正当なクレームは、カスハラではありません。また、不当クレームでもない単なる嫌がらせ行為(=要求がない)もカスハラに含まれます。
企業としては、顧客からのクレームについて、正当なクレームと不当なクレームを区別し、正当なクレームについては、適切に対応し、不当クレームは拒絶する必要があります。なお、要求を伴わない単なる嫌がらせは、当然、拒絶すべきです。
3 カスハラに該当するか否かの区別
正当なクレームと不当なクレーム(カスハラ)を区別する際は、要求の「内容」と要求の「手段・態様」のいずれかが不当か否かを検討することがポイントです。以下にいくつか具体例を示します。
- 要求「内容」が不当な例
- ア 高額な慰謝料の要求
例えば、従業員が顧客の持ち物(時価1万円)を壊してしまい、顧客から慰謝料として100万円を請求された場合、顧客の損害額以上の過大な金額の要求であるため、要求「内容」が不当といえます。 - イ 正当な理由のない返金要求、返品要求
例えば、顧客の不注意で壊れてしまった商品について、返金・返品を請求する場合、要求「内容」が不当といえます。 - ウ 土下座の要求
仮に企業の謝罪が必要な場面でも、土下座の要求は、要求「内容」が不当といえます。
- ア 高額な慰謝料の要求
- 要求「手段・態様」が不当な例
- ア 怒鳴る、乱暴な口調
「馬鹿野郎」などと怒鳴ったり、暴言が出てきた場合、要求「手段・態様」が不当といえます。 - イ 脅迫的言動、暴力的言動
「言うことを聞かないとただでは済まないぞ」等の脅迫的・暴力的言動は、脅迫罪に該当する可能性があります。 - ウ 執拗な電話
長時間の電話や連日の電話をかけてきて同じ話を何度も繰り返す場合は、要求「手段・態様」が不当といえます - エ 長時間の居座り
自分の主張のために店舗などに長時間居座る場合、企業としては業務の妨げになりますし、特に、退去を求められても居座る場合、要求「手段・態様」が不当といえます。
- ア 怒鳴る、乱暴な口調
4 カスハラ対策
カスハラ対策を1つだけ挙げると、カスハラへの対応基準を設けることが重要です。
あらかじめ、どのような事例がカスハラに該当するか、社内で検討した上で、カスハラに該当する事例が発生した場合の対応基準(従業員複数での対応、上司の対応、警察への通報、弁護士への相談等)を設けておくと、従業員はスムーズに対応しやすくなります。
5 さいごに
何がカスハラに該当するか分からない、カスハラをする顧客への対応に悩んでいる、カスハラ対策で何をすればいいか分からない等お困りの場合には、弁護士に相談することをご検討ください。
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【かしま法律事務所】
所属弁護士:村田 羊成(むらた よしなり)- プロフィール
- 中央大学法学部卒業、中央大学法科大学院修了。弁護士登録後はかしま法律事務所に所属し、主に、交通事故、労災事故、相続、離婚・不貞問題、中小企業法務(労務問題)を中心に活動を行い、ご依頼者様の人生やビジネスに立ちはだかる困難を取り除き、解決するために奔走している。好きな言葉は「学ぶとはいかに自らが知らざるかを知ること」。
交通事故解決事例
1 事案の概要
横断歩道を渡っていたXさんは、右折してきたトラックに轢かれ、外傷性くも膜下出血や右足指の骨折などの大きな怪我を負いました。Xさんは事故日に入院し、1年2か月ほど治療を続けた後に後遺障害申請を行ったところ、右足指の骨折に伴う欠損障害や機能障害により、自賠法施行令別表第二第9級の後遺障害が認定されました。その後、相手方保険会社から示談提案がされました。
2 入院・通院付添費
入院付添費について、赤い本は「医師の指示または受傷の程度、被害者の年齢等により必要があれば職業付添人の部分は実費全額、近親者付添人は1日につき6,500円が被害者本人の損害として認められる。」としています。入院して付添があれば常に入院付添費が認められるわけではなく、付添の必要性がある場合、相当性がある範囲で認められることになります。医師の指示があれば、原則として必要性が認められますが、医師により付添の指示がなされることは少なく、この点を加害者側が指摘して争われることが多くあります。
通院付添費について、赤い本は「症状または幼児等必要と認められる場合には被害者本人の損害として肯定される。この場合1日につき3,300円。」としています。通院に付添を必要とする場面は入院付添ほど多くはないとされていますが、通院に付添った事実が認められ、必要性がある場合、相当な範囲で通院付添費が認められます。その典型として、下肢機能の障害や著しい疼痛・めまいにより歩行が困難あるいは著しく不安定な場合、あるいは脳機能障害により単独での外出・移動が困難である場合などが考えられます。
3 本件の場合
相手方保険会社からの示談提案書を確認したところ、Xさんが高齢であり近親者(Xさんの娘)が付添をしていたこと、当時の入通院時の状況、事故当時の怪我の状態、診断内容及び後遺障害の内容から、入通院付添費が支払われる可能性があると考えました。
そうして、Xさんらのお話をもとに、付添の回数や状況などに鑑みて請求額を算定し、相手方保険会社に請求した結果、請求額の通り支払われることとなりました。
4 おわりに
入通院に付添人がいる場合、本人の怪我の状況や本人のみで入通院を行う困難さによっては入通院付添費が支払われる可能性があります。ただし、病院に行っていても単なる見舞いに過ぎない場合や医師の説明を受け手続をしただけなどの場合は付添費が否定されることがあるため注意が必要です。
本事例では入通院付添費についてご紹介いたしましたが、弁護士が交渉を行うことで慰謝料などの他の費目についても増額の可能性があります。相手方保険会社から示談提案がありましたら、増額の可能性について一度弁護士にご相談することをおすすめいたします。
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【かしま法律事務所】
所属弁護士:佐々木 英人(ささき ひでと)- プロフィール
- 山形大学人文学部卒業、中央大学法科大学院法務研究科修了。弁護士登録後はかしま法律事務所に所属し、主に、交通事故、労働事件、相続、離婚・不貞問題、中小企業法務(労務問題)を中心に活動を行う。ご依頼者様にしっかり寄り添い、少しでも早く不安や不満が解消されるよう迅速な活動を心がけている。好きな言葉は「雨垂れ石を穿つ」。