介護事業に関するさまざまなお悩みをリーガルケア

利用者と事業所職員のトラブル

介護事故の予防と発生時の対応

処置の流れ

事業運営をおこなう介護施設で介護事故が発生した場合、弁護士はどんなサポートをしてくれるのでしょうか。※あくまで一般的な解決までの流れをイメージしたものです。

1 応急処置

外傷措置の他、食べ物を喉に詰まらせた場合のタッピングや、心臓・呼吸停止の心肺蘇生・AEDなど慌てず対応を。

2 事故の調査・記録化

事故の状況、どのような応急措置を行ったか、救急搬送の手配を行ったか、現在の本人の状況はどうなっているかを詳細に記録します。

  • 職員個人の問題ではなく、事業者側組織の問題として一体的な対応が必要です。
  • 事故の記録化にあたっては、まずは関与者を押さえる必要があります。
  • 事後後速やかに、調査を進めます。速やかにミーティングを実施し、事故調査への協力を取り付けます。
  • 事故前の利用者の状況から、時刻順に何が起きたかの把握を行いましょう。また、関係職員の事故前後の行動を把握しましょう。この際、関係者の責任追及をしてしまうと、状況調査がスムーズにできないことがあります。
  • サービスを担当した職員個人を咎めることや責任追及はいったん保留し、事実調査に専念する必要があります。また、事業者側に不利な事情を発見しても、それを隠したり証拠や資料を改ざんすると、犯罪になる可能性があります。絶対に避けましょう。
  • 職員の意図的な問題行動や大きな落ち度があった場合は、別途労務問題として対処が必要となります。

3 利用者・家族との面談と報告と道義的謝罪

事故後、速やかに、責任者と担当職員が利用者やその家族とお会いし、誠実かつ真摯な謝罪対応をしましょう。

法的責任はいったん置いておき、事故が起きてしまったことについて道義的な謝罪をすべきです。事故が起きてしまったことについて遺憾の意をお伝えして謝罪することは、法的責任とは別の話です。多くの利用者・家族は、介護サービスで事故が起こり得ることをわかっています。事故に際して、事業者への責任追及を徹底したいと思っているわけではありません。報告の姿勢、事故後すぐに謝罪しなかったこと、誠意をもって対応してくれなかったことに立腹します。

重要なことは、事業者側の「誠意」です。「誠意」の本質は、スピード・先手、説明や話し合いの姿勢の強調です。また、連絡窓口も先方の混乱を防ぐためにも、一本化しておく必要があります。慣れない事故対応の場合、事業者として「どこまでをすべきか」「してはならないか」のライン判断が難しいかと思います。

注意すべきは「100パーセント、こちらの責任です」「全ての落ち度は私達にあります」「〇〇万円の賠償をします」などと認めるような発言をしたり、先方の用意した書面にサインをしてしまうことです。このような発言や書面へのサインは、後に法的責任で争うことが難しくなるため、必ず避けましょう。

また、先方がこちらに断りなく録音していることもあります。お会いする際の会話は録音されていることを前提に謝罪対応をすることが重要となります。話し合いの際には、模擬練習や想定問答の練習をするなど、事前準備も必要です。

4 自治体への届出、警察対応

重傷事故や死亡事故、食中毒や感染症などが発生してしまった場合は、速やかに自治体の担当部署への報告が必要です。また、事業者側の体制不備が原因であれば行政指導の対象になります。この場合、再発防止のための教育体制の整備等が不可欠です。

職員の落ち度や利用者の受けた損害状況によっては、業務上過失傷害などの刑事問題として、警察の捜査対象となり、職員・施設長が事情聴取を受けるような場面もあります。これら捜査について、職員・介護事業者がどのように対応するべきかをアドバイスします。

5 お見舞いや入院等のサポート

担当職員の配置、継続的なお見舞い、心身のケア、必要物品の購入サポートを行いましょう。サポート体制がしっかりしていれば、利用者やご家族は「責任者が誠意のある丁寧な対応をしている」と感じ、法的な責任追及を控えることもあります。

6 原因調査

利用者本人の要因、職員全員に共通する要因、職員個人の要因、環境面の要因という複数視点からの調査を進めます。事後後の調査に加えて、さらに詳細な事実調査や原因分析を進めます。

担当職員がマニュアルに従ったケア・サービスができていたか、マニュアルに不備はなかったか、教育研修体制は十分であったか、ヒヤリハット事例の共有ができていたか、職員の疲労度や健康状態を把握できていたか、などが重要な調査対象となります。第三者委員や事故調査委員会の立上げ・調査事項の分析なども弁護士として活動をサポートします。

7 再発防止策の検討

利用者の行動把握や環境整備、サービスマニュアルの見直し、施設利用ルールの見直し、職員のスキルチェックや再研修、施設の物理的な改修、備品の見直しなど、再発防止策。

8 法的対応の確定

法的対応を確定します。事業者側に事故の責任がある場合は、保険利用の可否と合わせて、賠償可能額の分析などを進めます。事業者側に事故の責任がないと考える場合は、利用者・ご家族への説明をどうするかを検討します。

9 保険利用時は保険会社との調整

保険利用の下記段取り/保険金との調整について、アドバイスなどいたします。

  • 保険会社への事故報告
  • 保険会社による事故原因・事故発生状況・損害状況について調査・聴取・責任割合の検討
  • 損害賠償責任の有無・範囲の打ち合わせ
  • 損害書類の取り付け・送付
  • 利用者・ご家族から損害算定資料の取り付け
  • 示談額(損害額×事業者の責任負担割合)の打ち合わせ

10 被害者・遺族との交渉や説明

保険会社、弁護士と協力しながら、丁寧かつ誠実な説明対応が必要になります。事業者としての責任がない場合は、利用者や家族を刺激しないように注意しながらも、特別の落ち度がないこと、法的な責任を認めることは難しいことを丁寧にお伝えします。また、弁護士が交渉や説明をサポートしたり、説明に同席することなども可能です。

11 示談・和解書の取り交わし

交渉がまとまった場合、示談・和解書の取り交わしを進めます。利用者やご家族にとって、理解が難しい法的な箇所は丁寧な説明が不可欠です。また、示談・和解書の取り交わしが進まない場合、利用者やご家族が弁護士に依頼するなどして、裁判になる可能性もあります。示談が難しい場合は、ADR・調停・訴訟になることもあります。

利用者・家族への初動対応

利用者の緊急搬送や治療に合わせて、組織として、一体的な対応を進めましょう。対応責任者や対応窓口を早期に確定させる必要があります。事故状況を記録化し、原因調査の上で、速やかに責任者と担当職員が、利用者やご家族との早期の面談実施が必要です。

まずは、事故が起きてしまったことについて、誠実かつ真摯に謝罪をします。その上で、ご利用者・ご家族のお気持ちや辛さを傾聴しましょう。報告や謝罪が遅れると、誠意が足りないとして、利用者・家族が感情的になってしまうことがあります。

重要なことは、事業者側の「誠意」です。「誠意」の本質は、スピード・先手、説明や話し合いの姿勢の強調です。責任割合、賠償金額については言及せずに数万円のお見舞金をお渡しすることも重要です。賠償金ではなく、お見舞い金としてお渡しするものです。

施設側から、お見舞いや入院等のサポート体制をお伝えすることも重要です。また、合せて、事故後の対応・利用者へのサポート体制がしっかりしていれば、誠意ある丁寧な対応をしていると感じ、法的な責任追及のトーンが低下することもあります。

03-6265-1817 平日9時30分~18時まで受付